
以前、慕っていたお師匠さんが、中華屋さんのあんかけ焼きそばをお土産に買ってきてくれたことがあります。調理されてから小一時間は経っていたのに、とろみの状態はほぼ完璧なまま。水っぽくもなっていなければ、粉っぽさも残っていませんでした。
「なんでこんなに崩れないんですか」と聞いたら、教わったのはとろみのつけ方より前の話でした。この記事では、その話も交えながら、水溶き片栗粉でダマにならず、狙ったとろみを安定させるための入れ方と火加減を説明します。
ダマになる原因は、全体に広がる前に固まること
片栗粉は水と熱が加わるととろみがつきますが、濃すぎる水溶き片栗粉を一か所にまとめて入れてしまうと、全体に散らばる前にその部分だけ先に固まってしまいます。私も昔、煮汁に注いだ途端にぶどうのような塊ができてしまった経験があります。
原因は濃すぎたことと、一か所に集中して入れてしまったことの両方でした。火加減や入れ方の具体的な対策は、この後の章でまとめて説明します。
水溶き片栗粉の作り方と濃さの目安
まず水溶き片栗粉は、片栗粉大さじ1に対して水大さじ2くらいを目安に溶きます。片栗粉と水を同量で溶く人もいますが、慣れないうちは水を少し多めにしておくと扱いやすく感じると思います。
溶いたときに「ぐぐぐぐっ」という抵抗があり、そこから水を加えていくとするするとかき混ぜられるようになる、その感覚を濃さの目安にしています。この感覚は、会社員時代に職場の先輩と「チャーメンの素と麻婆豆腐の素、どっちの片栗粉で覚えた?」と話したことがあって、市販品に付いている「粉を◯ccの水で溶いて回し入れる」という説明書きで、お互い体で覚えていたと気づいた記憶があります。
ここでの割合は、あくまで「片栗粉をどれだけの水で溶くか」の話で、料理全体にどれだけの量の片栗粉が必要かとは別の話です。
全体の量は鍋の大きさや汁気によって変わるので、まずはこの割合で溶いておき、料理を見ながら加える量を調整してください。また水溶き片栗粉は置いておくと沈殿するので、鍋に入れる直前にもう一度溶き直すようにしています。

火を弱め、少し入れては混ぜ、とろみを見る
野菜がたくさん入ったあんを作る場合は、片栗粉を入れる前に、野菜をある程度煮て水分をしっかり出しておきます。ここを飛ばすと、とろみをつけたあとに野菜から水が出てきて、あんが薄まってしまうことがあります。
これは、お師匠さんに教わったことでもあります。中華のプロは、味付けをする段階の前に、白菜のような水分の多い野菜をあらかじめ下茹でして、水分をある程度出してしまうのだそうです。そうしておくと、最後にとろみをつけたあとも野菜から水が出てこないので、時間が経ってもとろみ具合が安定する。あのお土産のあんかけ焼きそばが小一時間経っても崩れていなかったのは、火加減の腕前だけでなく、この下ごしらえのおかげだったんだと思います。
準備ができたら、煮汁を一度しっかり温め、火を弱めます。
そこへ水溶き片栗粉を混ぜながら少しずつ注ぎ入れます。全部を一気に入れるのではなく、少量ずつです。注ぐ手を止めたあとも、混ぜる手だけは止めずに動かし続けてください。片栗粉を入れた場所だけを見てとろみがついたかどうかを判断せず、鍋全体を混ぜてから様子を見るのがポイントです。
それでもとろみが足りなければ、同じように少量を追加してまた混ぜます。一度で決めようとせず、様子を見ながら少しずつ足していく感覚です。追加で入れるときに一度火を止める方法もありますが、私は弱火のまま様子を見ながら調整しています。これは水溶き片栗粉を入れた分、煮汁の温度が下がるのでもう一度温度を上げる必要があり、私はそこの時間を短縮するため弱火のまま投入しています。
どちらの場合も、鍋の一か所にまとめて入れず、全体に行き渡らせるように混ぜることで全体に片栗粉をわたらせ温度も均一に上げていくことになります。
とろみが付いた後も、仕上げの加熱をする
とろみがついたのを見て、すぐに火を止めたくなりますが、そこでもう少しだけ火を入れるようにしています。入れてすぐ止めると、粉っぽさが残るように感じるからです。かといって火を入れすぎると、せっかくついたとろみの状態を通り過ぎてしまう感覚もあります。
これは体感だけでなく、片栗粉の性質としても説明がつきます。片栗粉のでん粉は、加熱を続けたり冷めたりすると粘度が落ちていく特徴があり、同じとろみづけに使うコーンスターチのように、熱を加え続けても粘度が保たれるわけではありません。とろみがついた瞬間がゴールではなく、そこから先にも「ちょうどよい範囲」があって、そこを通り過ぎると緩んでいく、とイメージすると分かりやすいと思います。
目安にしているのは、鍋の中がふつふつと泡立ち、透明感が出てくるところです。量や火力によって秒数は変わるので、時間では言えませんが、この見た目の変化を区切りとして見ています。とろみは、入れた瞬間だけで決まるものではなく、野菜から水が出てこないか、火を入れすぎていないか、という時間差の中で安定していくものだと思います。


コメント